これぞ仲野太賀のベストアクト!映画『あの頃。』で彼が残した、どうしようもなく青い輝き

国民的俳優となりつつある今、振り返るべき「原点」
今や、日曜夜の顔になりつつある俳優、仲野太賀。2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』で主役を務め、まさに日本を代表する存在として今注目を集めていますね。そんな彼が数年前に、スクリーンにこれでもかと「青い衝動」を叩きつけた一作があったことをご存知ですか?
それが、『あの頃。』という映画です。
この作品は、松坂桃李が演じる主人公とともに、ハロー!プロジェクトのアイドルに情熱を捧げた男たちの、滑稽で、美しく、泥臭い青春群像劇です。仲野太賀が演じたのは、仲間内で最もプライドが高く、毒舌で、それでいて誰よりも寂しがり屋な男「コズミン」でした。
物語の前半、私たちは彼の「中学10年生」のような振る舞いに、ただただ腹を抱えて笑わされます。ですが、初見の観客の誰が想像できたでしょうか。その「笑い」の先に、あんなにも壮絶で、あまりに鮮烈な結末が待っているなんて。
今回は、国民的俳優の階段を駆け上がっている仲野太賀さんが見せた、当時の「魂のベストアクト」について――特に、観る者すべての予想を裏切り、心を激しく揺さぶったあの圧巻の後半シーンについても書いてみました。
【ご注意】 この先は、映画『あの頃。』の物語の核心や結末に関する重大なネタバレを含みます。 初見の時の「あの衝撃」を大切にしたい方は、ぜひ映画をご覧になってから、またこの場所へ戻ってきていただければ幸いです。
「コズミン」という、愛すべき“怪物”
仲野太賀が演じたコズミンは、一言で言えば「とてつもなく厄介で、とてつもなく愛おしい男」です。
物語の舞台となるのは、お金も仕事もないけれど、大好きなアイドルの話をしている時だけは無敵になれる、そんな男たちが集まる古いアパートの一室。そこでコズミンは、常に誰かに毒を吐き、重箱の隅をつつくような嫌味を言い放ちます。プライドが高く、素直になれず、周囲を困惑させるその姿は、一見するとただの「嫌な奴」に見えてもおかしくありません。
ですが、仲野太賀はこの役に、計算し尽くされた「可愛げ」と「愛嬌」を吹き込みました。
彼がニヤリと笑い、屁理屈をこねるたびに、画面からは「中学10年生」と呼びたくなるような、大人になりきれない若者の純粋な熱量が溢れ出します。今の彼が演じている大河ドラマの誠実な役柄とは真逆の、言わば「人間のダメな部分」を煮詰めたような役どころですが、そのダメさ加減が、観ている私たちの心の奥底にある「格好悪い自分」と共鳴してしまうのです。
このコズミンというキャラクターを、単なる脇役ではなく、物語の魂を揺さぶる「怪物」へと昇華させたこと。それこそが、仲野太賀が当時から放っていた、唯一無二の才能の証だったと感じます。

あらすじ:どん底の日常を変えた、赤い情熱
物語の始まりは、2000年代初頭。大学院受験に失敗し、彼女もおらず、バイトに明け暮れるどん底の生活を送っていた主人公・劔(つるぎ)は、ある日、友人から渡された松浦亜弥さんのMV「桃色片想い」を目にします。その一瞬で、彼の灰色だった世界は鮮やかなピンク色に染まりました。
劔はすぐさまハロー!プロジェクトのオタクたちが集まる店へと向かい、そこで出会ったのが、強烈な個性を持つ仲間たちです。
ネット掲示板で知り合った彼らは、銭湯へ行ったり、誰かの部屋に集まってライブビデオを観たり、学祭でモーニング娘。を完コピして踊ったり……。お金も将来への希望も何もないけれど、ただ「推し」がいるというだけで繋がった彼らの日々は、まるで終わらない文化祭のような熱狂に包まれていました。
そんな仲間たちの中でも、ひときわ異彩を放ち、場をかき乱し、そして誰よりもこの「居場所」を愛していたのが、仲野太賀さん演じるコズミンだったのです。
物語は、彼らが「ハロプロ」という共通の目的のもと、バカ騒ぎを繰り返す最高に楽しい日々を映し出していきます。しかし、時間は残酷に流れていきます。一人、また一人と仲間たちは就職や結婚といった「現実」に向き合い始め、あんなに熱狂的だったコミュニティも、少しずつ形を変えていきました。
それぞれが大人になっていく中で、劔もまた、音楽ライターとしての道を歩み始めます。かつての熱狂は「美しい思い出」へと変わりつつありました。
ですが、そんなある日、劔のもとに一本の連絡が入ります。それは、あの頃の象徴であり、誰よりも「中学10年生」のまま止まっていたはずのコズミンに関する、あまりにも衝撃的な知らせでした。ここから物語は、ただの「オタクの青春物語」では終わらない、魂を揺さぶる領域へと踏み込んでいくことになります。
「中学10年生」が放つ、どうしようもなく青い輝き
この映画を語る上で欠かせないキーワードが「中学10年生」という言葉です。
本来、中学生は3年経てば卒業し、高校、大学、そして社会人へと大人になっていくものです。しかし、劔やコズミンたちは、20代半ばを過ぎてもなお、中学生の頃と同じような熱量でバカなことを言い合い、好きなものに全力を注いでいます。
世間一般の物差しで測れば「大人になりきれないダメな大人」かもしれません。けれど、彼らにとってそんな外野の視線はどうでもいいことでした。中学を卒業してから7年も経っているのに、まだ精神性は中学生のまま止まっている――。そんな自分たちの状態を、自虐と誇りを込めて「中学10年生」と呼んでいるのです。
仲野太賀さん演じるコズミンは、まさにこの「中学10年生」の象徴のような存在です。
仲間の誰かがまともなことを言おうものなら、すかさず毒を吐いて空気をぶち壊す。それでいて、一緒にモー娘。を踊る時は誰よりも必死。そんな彼らが放つ輝きは、あまりにも青く、あまりにも無防備です。
「何者かにならなきゃいけない」という社会のプレッシャーを跳ね除け、ただ仲間と笑い合っている彼らの姿は、今の私たちがどこかに置き忘れてしまった「純粋な楽しさ」を思い出させてくれます。だからこそ、この「終わらない文化祭」のような空気が、ずっと続いてほしいと願わずにはいられないのです。
【深掘り:圧巻の後半シーン、コズミンが残したもの】
物語の後半、それまで「中学10年生」のバカ騒ぎに笑っていた私たちは、予期せぬ展開に凍りつくことになります。誰よりもバイタリティの塊だったコズミンを襲った、あまりにも突然で過酷な現実。この「日常の崩壊」こそが、映画『あの頃。』が単なる思い出話で終わらない理由です。
1. 油断していた観客を襲う「突然の静寂」
ずっと続くと思っていた、仲間との下らないやり取り。アイドルの話をして、銭湯に行って、牛丼を食べる。そんな当たり前の景色が「死」という圧倒的なリアルによって一変します。
初見のとき、私はこの展開を全く予想していませんでした。キラキラとした青春映画のつもりで観ていた観客の足元を、すくい上げるような衝撃。画面に流れる空気は一気に重くなりますが、ここで仲野太賀の真骨頂が発揮されます。
2. 仲野太賀が見せた「生」への執着と「芸人」の魂
病室のシーンでの仲野太賀の演技は、まさに「圧巻」の一言に尽きます。 体は痩せ細り、死がそこまで迫っている極限状態。普通なら、観る側の涙を誘うだけの「悲劇のヒーロー」になってしまうところです。しかし、仲野太賀が演じるコズミンは違いました。
彼は最期の瞬間まで、毒を吐き、悪態をつき、仲間を笑わせようとします。自分を哀れむような視線を全力で跳ね除け、いつもの「厄介なコズミン」であり続けようとするのです。その必死な姿、剥き出しの生存本能。悲しみをユーモアで包み隠そうとする彼の表情筋の動きひとつひとつに、私は息を呑みました。
3. 「死」を「青い青春」のまま閉じ込める演技
仲野太賀がコズミンを演じたからこそ、あの最期は「かわいそうな死」ではなく、「一生懸命に生きた証」として、どこか爽快さすら漂う不思議な余韻を残します。
今や大河ドラマの主役として、数千人の家臣を率いるような重厚な役柄を演じつつある彼ですが、この映画の中で見せたのは、たった一人の「名もなきオタク」としての命の燃焼でした。あの凄まじいエネルギーの片鱗があったからこそ、今の彼の躍進がある。そう確信させられるほど、この後半シーンの輝きは強烈です。
コズミンは最後まで「中学10年生」として、格好悪く、そして最高に格好良く、自分の人生を走り抜けました。その姿は、私たちの心に永遠に消えない「青い光」を焼き付けてくれたのです。
結末:コズミンが教えてくれた「人生の愛おしさ」
映画の幕が閉じたあと、心に残るのは単なる悲しみではありません。それは、自分の人生のどこかにあったはずの「あの頃」を愛おしむ、温かくも切ない余韻です。
この映画の主演は、間違いなく松坂桃李です。彼の穏やかで繊細な演技が物語の軸を支えていたことは言うまでもありません。しかし、物語が進み、ラストシーンを迎える頃には、仲野太賀が見せたあまりに強烈な演技が、良い意味で主役を食ってしまったのではないか、というほどの衝撃が残ります。
彼が演じたコズミンという男は、最後まで立派な大人にはならなかったかもしれません。でも、何かに夢中になり、仲間とバカ笑いした時間は、どんなに時間が経っても色褪せない「本物の人生」だったのだと、彼の熱演が教えてくれます。
大河ドラマの主役として日本中を背負う存在になりつつある今の仲野太賀も素晴らしいですが、この映画の中で、たった一人の「名もなきオタク」として命を燃やし尽くし、主演をも凌駕する存在感を放った彼の姿を、私は一生忘れないでしょう。
もし、日々の生活に少し疲れて「あの頃は良かったな」と溜息をつきたくなった時は、ぜひこの映画を、そして仲野太賀のコズミンを観てみてください。きっと、格好悪くて最高の「青い輝き」が、あなたの背中をそっと押してくれるはずです。
映画の幕が閉じたあと、心に残るのは単なる悲しみではありません。それは、自分の人生のどこかにあったはずの「あの頃」を愛おしむ、温かくも切ない余韻です。
私はこの映画を観てから、辛いときはいつもコズミンのあの笑顔を思い出すようになりました。手元に置いて、何度も見返したくなる宝物のような一作です。
