『化け猫あんずちゃん』まるで寅さんのようなキャラに ほっこり温かくなる物語
今回は現在公開中の話題のアニメを取り上げます。それは「化け猫あんずちゃん」。まるで怪談映画みたいなタイトルですが全く怖くない、むしろコメディタッチのアニメです。
あんずちゃんは人前でオナラはするし、人から借りたお金はパチンコですってしまうようないい加減な性格ですが義理人情にはあつく、かわいい女の子には弱い。まるでこれは「男はつらいよ」の寅さんのようだと思いました。寅さんの場合パチンコですったりするシーンはなかったと思いますがいつも財布はすっからかん。有っても500円程度。要するに日本人はこういうキャラが好きなのだと思います。なので観客はあんずちゃんに親近感を覚えるのだと思います。
あんずちゃんと人間の女の子かりんちゃんの見事なコンビネーションが面白いです。かりんちゃんの前にいきなり原付バイクに乗って出てくる化け猫あんずちゃん。しかも無免許なのでそりゃ捕まるわ。
さらにカリンちゃんのパパがこれまた絵に描いたようなダメ親父なんです。その声を演じるのは青木崇高さん。ベストなキャストです。
「化け猫あんずちゃん」というユニークな設定でありながら、普遍的な人間ドラマを描いた本作。この記事では、なぜこの映画が人の心を捉えるのか、その魅力を「寅さん」シリーズと比較しながら深掘りしていきたいと思います。
ストーリー
雷鳴轟く雨夜、寺の和尚は段ボールの中から鳴き声に気づき、子猫を拾う。その子猫は「あんず」と名付けられ、大切に育てられた。ところが不思議なことに、年月が流れ、いつしか人間の言葉を話し、人間のように暮らす“化け猫”となっていた。
あんずの移動手段は原付。お仕事は按摩のアルバイト。現在37歳。そんなあんずちゃんの元へ、親子ゲンカの末ずっと行方知れずだった和尚さんの息子・哲也が11歳の娘「かりん」を連れて帰ってくる。しかしまた和尚さんとケンカし、彼女を置いて去ってしまう。
大人の前ではいつもとっても“いい子”のかりんだが、お世話を頼まれたあんずちゃんは、猫かぶりだと知り、次第にめんどくさくなっていく。
かりんは哲也が別れ際に言った「母さんの命日に戻ってくるから」という言葉を信じて待ち続けるも、一向に帰ってこない。母親のお墓に手を合わせたいというささやかな望みさえ叶わないかりんは、あんずにお願いをする。「母さんに会わせて」。
たった一つの願いから、地獄をも巻き込んだ土俵際の逃走劇が始まります。
そんなこんなである日、かりんは大きな決断を迫られます。それは、自分の人生を自分で切り開いていくこと。あんずは、かりんの決断を尊重し、彼女の未来を心から祝福する。そして、二人はそれぞれの道を歩み始める。
「化け猫あんずちゃん」の地獄とは
「化け猫あんずちゃん」の中で最も面白い部分が地獄の描写です。一般的な恐ろしいイメージとは異なり、どこか温かみのある、そしてユーモラスな空間として描かれています。この独特な地獄は、作品の持つ優しい雰囲気をさらに際立たせる重要な要素の一つです。
日常と地続きの地獄
この作品における地獄は、特別な場所というよりも、日常の延長線上にあるような、身近な存在として描かれています。そう、地獄の世界はまるで現実の世界。例えば、かりんの実家のトイレが地獄への入り口になっていたり、地獄の番人が人間と見分けがつかないほど人間くさいなど、現実世界との境界線が曖昧な描写が見られます。この日常と地続きの地獄は、観る者に親近感を持たせると同時に、死やあの世といった抽象的な概念をより身近に感じさせてくれます。
ユーモアと温かさが溢れる地獄
地獄といえば、炎に焼かれるような恐ろしいイメージが一般的ですが、本作の地獄は全く違います。地獄の番人はどこか憎めないキャラクターだったり、鬼たちが世間話をしていたり、といったユーモラスな描写が満載です。また、地獄の住人たちも、人間と同様に悩みを抱えていたり、人間関係に悩んでいたりするなど、どこか人間くさい一面を見せます。この温かい雰囲気は、地獄という場所に対する恐怖心を和らげ、観る者に優しい気持ちを与えてくれます。
仏教的な要素と現代的な解釈
本作の地獄は、仏教的な要素も取り入れられています。輪廻転生や因果応報といった概念は、この作品の根底を支える重要な要素の一つです。しかし、本作はこれらの概念を厳格に描き出すのではなく、より現代的な視点から解釈し、独自の物語を作り上げています。例えば、地獄は単なる罰の場所ではなく、自分自身を見つめ直すための場所として描かれています。
現代社会に投げかけるメッセージ
「化け猫あんずちゃん」は、一見ファンタジーな物語ですが、その奥底には現代社会が抱える問題に対する温かい視線と、希望に満ちたメッセージが込められていると思います。
1. 人間関係の大切さ
現代社会は、SNSなどを通じて人との繋がり方が多様化していますが、一方で孤独感を感じている人も少なくありません。筆者の私もそうです。この作品は、人間関係の根底にある温かさを描き出し、人と人との繋がりこそが心の支えになることを教えてくれます。特に、世代を超えた友情を描いた「あんず」と「かりん」の関係は、多様化する現代社会において、異なる価値観を持つ人々が共存していくことの大切さを示唆していると言えると思います。
2. 心の癒しを求める現代人へ
都会の喧騒の中で、多くの人が心の安らぎを求めています。「化け猫あんずちゃん」の穏やかな物語は、そんな現代人の心を癒し、穏やかな気持ちを取り戻させてくれます。自然豊かな寺の風景や、人間と動物の触れ合いなど、都会では失われつつある温かいものが描かれており、観る者に安らぎと癒しを与えます。
3. 自分らしさを大切にすることの大切さ
主人公の「かりん」は、周囲の期待に応えようとする中で、自分を見失いかけます。しかし、あんずとの出会いを通して、自分らしさを大切にすることの大切さを学びます。現代社会では、個性よりも画一的な価値観が求められる傾向がありますが、この作品は、自分らしさを大切にすることの大切さを教えてくれます。
4. 変化を恐れず、前に進む勇気
「かりん」は、様々な困難を乗り越え、成長していきます。この作品は、変化を恐れずに前に進む勇気を与えてくれます。特に、現代社会では、変化のスピードが速く、多くの人が不安を感じています。そんな中、この作品は、変化を恐れずに新しい一歩を踏み出すことの大切さを教えてくれます。
「化け猫あんずちゃん」と「男はつらいよ」を繋ぐ、心のふるさと
「化け猫あんずちゃん」の主人公、かりんの祖父がお寺の住職であるという設定は、国民的人気シリーズ「男はつらいよ」の主人公、寅さんの故郷である柴又帝釈天と深く結びついているところに共通点を感じます。
寅さんシリーズは、柴又帝釈天を拠点に、日本各地を旅する人情味あふれる物語でした。お寺という場所は、寅さんにとって心のふるさとであり、いつでも帰ることができる場所でした。そこには、家族の温もりや故郷の風景、そして人々の温かいふれあいが存在していました。
「化け猫あんずちゃん」においても、お寺はかりんにとって、心の拠り所となる場所です。祖父である住職の存在は、寅さんにとっての柴又帝釈天のように、かりんに安定感と安心感を与えていると感じました。寺という空間は、ただ物理的な場所であるだけでなく、かりんの心の支えとなり、成長を促す重要な役割を果たしているのです。
さらに、お寺は、様々な人々が集まる場所でもあります。寅さんの場合、柴又帝釈天の近くにある実家に個性豊かな人々が集まり、そこでの人間模様が物語を彩りました。同様に、「化け猫あんずちゃん」においても、様々な人とのかかわりを通して、かりんは成長していく様を描いてます。
まとめと感想
「化け猫あんずちゃん」は、現代社会が抱える問題に対して、温かい視線と希望に満ちたメッセージを投げかけています。人間関係の大切さ、心の癒し、自分らしさを大切にすること、変化を恐れず前に進む勇気、そして自然との共生。これらのメッセージは、現代を生きる私たちにとって、心に響くものがあるはずです。
物語は、静かに、そして力強く、成長と別れ、そして新しい始まりを描いていく。化け猫と少女の交流を通して、家族の絆、友情、そして自己肯定感といった普遍的なテーマが描かれ、観る者の心に温かい余韻を残す。
とにかく、全体的にゆる〜いトーンがいいんです。決して今風の立体的なアニメではないが、できれば「男はつらいよ」みたくシリーズ物にして欲しいと思います。