なぜ“近畿の伝統都市”が選ばれた?映画『国宝』ロケ地の魅力と背景を探る。

なぜ“近畿の伝統都市”にロケ地が集中?その理由に迫る
映画『国宝』は、伝統芸能・歌舞伎の世界を舞台に、芸に命をかける人間たちの葛藤と絆を描いた作品です。主演の俳優陣の熱演とともに、リアルな舞台裏や古き良き風景が印象的だったと感じた人も多いのではないでしょうか。
関東の人には、「歌舞伎」と聞くとまず思い浮かぶのは、東京・東銀座にある歌舞伎座かもしれません。実際、歌舞伎界の象徴として映像作品でも頻繁に登場する場所ですが、今回の『国宝』ではあえて東京を離れ、京都・奈良・東大阪という“近畿三都”にロケ地を絞っているのが大きな特徴です。
実際に作品を観ていても、どこかで見たような町並みや、歴史の重みを感じる建物が多数登場します。では、なぜこれらの地域が撮影地として選ばれたのでしょうか?
この記事では、映画『国宝』のロケ地を紹介しつつ、近畿の伝統都市が選ばれた背景や理由を“考察”として探っていきます。
なお、本記事の内容には、公式情報をもとにした記述に加えて、いくつか筆者の推測を含む部分もあります。あらかじめご了承ください。
映画をより深く味わいたい人や、ロケ地巡礼を楽しみたい人に向けた**“鑑賞の手引き”**として、ぜひ最後まで読んでみてください。

主なロケ地紹介|京都・兵庫・滋賀・大阪に刻まれた“国宝”の世界
映画『国宝』では、主人公の芸道の軌跡と重なるように、関西各地に残る伝統建築や歴史的空間が多数ロケ地として使用されました。観ているだけで、どこか懐かしく、張り詰めた空気を感じた人も多いのではないでしょうか。
ここでは、実際にロケ地として使用されたことが確認されている施設・街並みを中心に、地域別にご紹介します。
◉ 京都府|格式と風情がにじむ“本物の舞台”
- 先斗町歌舞練場(ぽんとちょう・かぶれんじょう)
伝統的な木造建築がそのまま活かされており、劇中では舞台裏や稽古シーンの重要な場面で登場。京都ならではの静かな緊張感が伝わってきます。
▶ アクセス:京阪「三条」駅から徒歩5分
◉ 滋賀県|びわ湖畔に広がる洋館と静謐な時間
- びわ湖大津館(大津市)
旧琵琶湖ホテルとしても知られるこの建物は、東京・銀座の歌舞伎座を設計した岡田建築事務所が手がけたもの。そのため、外観にもどこか歌舞伎座を思わせる風格が漂います。
劇中では、歌舞伎劇場「日乃本座」の外観として使用され、さらに館内のロビーでは稽古の場面も撮影されています。びわ湖畔の自然と重厚な建築美が、物語の静けさと緊張感を際立たせる印象的なロケ地となっています。
▶ アクセス:JR「大津京」駅から徒歩約15分
◉ 兵庫県|演芸の原点を映す“現役の芝居小屋”
- 出石永楽館(豊岡市)
明治時代から残る芝居小屋。実際の舞台設備や花道がそのまま使われ、劇中でも地方公演のシーンで登場します。全国でも現役の芝居小屋は希少で、訪問価値大。
▶ アクセス:JR「豊岡」駅からバスで出石へ
◉ 大阪府|昭和の残り香と日常が交差する橋
- 玉手橋(大阪・柏原市)
近鉄南大阪線の鉄橋が近く、昭和レトロな雰囲気が残るこの場所では、主人公の回想シーンや日常の断片が描かれていました。映画の中ではごく短い登場でも、印象に残るカット。
▶ アクセス:近鉄「道明寺」駅から徒歩10分
なぜ近畿に集中?“考察パート”
映画『国宝』の主なロケ地として登場するのは、京都・滋賀・兵庫・大阪と、いずれも関西圏に位置する地域です。これらの地域に撮影が集中した背景には、作品の世界観に即した文化的・建築的特性があったと考えられます。
以下では、確認されているロケ地情報をもとにしながら、なぜ近畿エリアが選ばれたのか、その可能性を探ります。
◉ 理由①:本物の伝統建築が現役で活用できる
劇中に登場する「日乃本座」の外観として使われた**びわ湖大津館(旧琵琶湖ホテル)**は、歌舞伎座と同じく岡田建築事務所が設計。外観に重厚な和洋折衷の雰囲気があり、セットでは出せない“本物の重み”を撮影に活かせる点が、ロケ地に採用された理由の一つと考えられます。
また、**出石永楽館(豊岡市)**は日本最古級の現役芝居小屋であり、撮影機材の搬入が可能で、なおかつ観客席や花道などの構造も維持されている稀有な施設。こうした場所が関西には現存しているという点は、ロケ地選定上の大きな強みです。
◉ 理由②:都市部からのアクセスと多様な景観
今回のロケ地はいずれも大阪・京都から比較的近く、機材やスタッフの移動が容易です。
特に、**京都・滋賀・大阪府下(柏原市など)**は、大都市圏にありながら昔ながらの景観を残しており、伝統と現代が同居する空気感を持つエリアです。
- 京都の先斗町歌舞練場は、伝統芸能の緊張感をそのまま表現可能
- 滋賀や兵庫の施設は、自然光と建築のコントラストが絵になる
- 大阪・玉手橋周辺は、昭和の庶民的風景としてリアルな生活感を加えている
こうした“多様な背景が近距離に集まっている”のは、ロケハン(ロケ地探し)にとって非常に好都合です。
◉ 理由③:自治体・施設側の協力体制が整っている
近畿エリアでは、映画・ドラマの誘致を目的としたロケ支援活動が非常に活発です。
たとえば、滋賀ロケーションオフィスでは撮影協力に加えて、
**「映画『国宝』滋賀ロケ地マップ」**まで制作しており、観光誘導と作品PRを兼ねた支援を展開しています。
また、兵庫県豊岡市や京都市は、文化施設の貸出やフィルムコミッションとの連携に積極的。
大阪府下の自治体も、交通規制や施設使用の調整に柔軟な対応を行っており、関西一円に撮影環境の整った体制が整っていることが、今回の撮影地の選定につながったといえるでしょう。
公式には語られない“選定のヒント”
映画『国宝』のロケ地がなぜ特定の場所に選ばれたのか、制作側から細かく説明されているわけではありません。
しかし、公式パンフレットやロケ支援情報、そして歌舞伎という題材そのものが持つ歴史を手がかりにすれば、いくつかの重要なヒントが浮かび上がってきます。
◉ 「作り物ではなく本物を撮る」という演出方針
公式パンフレットでは、監督や美術スタッフが**「本物の施設を活かすことで、役者や空間にリアリティが生まれる」と語っており、作品全体に通底する“作り物を排除したリアル志向”**が明言されています。
たとえば、出石永楽館や先斗町歌舞練場のような現役の芝居施設は、物語の空気を壊すことなく、自然な演技や所作が成立する環境として重視されたことがうかがえます。
◉ 歴史的背景:歌舞伎の原点は京都にある
映画のテーマである「歌舞伎」は、江戸時代初期、京都・四条河原で出雲の阿国が始めた“かぶき踊り”が起源とされています。
つまり歌舞伎は、もともと江戸(東京)ではなく、京都で生まれた芸能文化なのです。
このルーツをふまえれば、劇中の物語が再び京都に立ち返り、歴史ある歌舞練場や芝居小屋が舞台となるのは、単なるロケの選定を超えた“文化的必然”とも言えます。
◉ 地域との連携によるロケーション展開
滋賀ロケーションオフィスが作成した**「映画『国宝』滋賀ロケ地マップ」**のように、行政や観光サイドも撮影を積極的に支援しています。
こうした連携は、単なる場所貸しではなく、“地域と作品が一緒に文化を伝える”という役割を共有していることを示しており、作品の世界観をより深く現実に根づかせる役割を果たしています。
聖地巡礼のすすめ|“国宝”の余韻に触れるロケ地めぐり
映画『国宝』は、物語だけでなく、映像そのものが持つ“空気感”が印象的な作品です。
ロケ地に実際に足を運ぶことで、その空気にもう一度触れられる──それが聖地巡礼の魅力です。
本作に登場するロケ地の多くは、実在する施設や風景として現在も訪れることができます。
ただし、中には一般公開されていない場所や、立ち入り制限がある施設も含まれます。
訪問の際は、地域の方や施設関係者にご迷惑にならないよう、マナーを守って静かに巡ることを心がけましょう。
◉ 出石永楽館(兵庫・豊岡市)
明治34年開館の芝居小屋で、現存する中では最古級の木造劇場。
劇中では地方巡業のシーンなどに登場し、舞台と客席の距離感や花道の構造もそのまま活かされています。
▶ 開館時間:9:30〜17:00
▶ 休館日:毎週木曜(臨時休館あり)
▶ アクセス:JR豊岡駅からバス約30分
◉ びわ湖大津館(滋賀・大津市)
元・琵琶湖ホテル。歌舞伎座と同じ建築事務所が手がけた洋館で、「日乃本座」外観として登場。
びわ湖畔の風景とともに、静謐な時間が流れる場所です。
▶ 入館無料(レストラン・庭園は有料エリアあり)
▶ アクセス:JR大津京駅より徒歩約15分
◉ 先斗町歌舞練場(京都市)
京都の中心・先斗町にある伝統の練習場。一般公開はされておらず、内部の見学はできません。
ただし、周囲の町並みや建物外観はそのまま残されており、劇中の雰囲気を感じ取ることができます。
▶ アクセス:京阪三条駅から徒歩5分
まとめ|“本物”の空気が息づく映画『国宝』の世界を、現地で感じてみる
映画『国宝』は、ストーリーや演技に加えて、実在する舞台・空間の力を最大限に活かした作品でした。
京都・滋賀・兵庫・大阪といった近畿の各地には、単なるロケ地以上の“意味”が込められており、文化の厚みと現実の手ざわりが画面越しに伝わってきます。
その場所を自分の足で巡ることで、作品の裏側にある歴史や空気感をもっと深く感じられるはず。
一つひとつの施設や町並みが、あなたの中で物語の続きとして再び息づいていく──
それがこの映画の“聖地巡礼”の魅力です。
🎁 あなたの体験が、次の誰かの“国宝”になるかも
映画は一度観終わったら終わりではなく、
その余韻や体験が自分自身の記憶の中で“国宝”のように大切に保存されていくものだと思います。
その価値をもう一歩広げたいと感じたら、ぜひ一度、ロケ地を訪れてみてください。
静かに立つその場所に、確かに映画の呼吸が残っています。
✍️ あなたの感想をコメントでぜひ教えてください!
このロケ地にも行った!
映画を観て思ったことがある!
他にも“ここで撮ってたのでは?”と思った場所がある!
そんな気づきや体験があれば、問い合わせ欄でぜひ教えてください。
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