令和の名作誕生!新たな一歩を踏み出す勇気と希望の物語『夜明けのすべて』
ロングランヒット『夜明けのすべて』とは
2月に公開されて現在もロングランヒット中の『夜明けのすべて』。一般の観客だけでなく、名だたる映画監督もこの映画を好みにあげるほどです。まさに令和の名作誕生と言ってもいい作品です。どうしてそこまでお金を払って見る映画館でヒットしているのか。そこで今回は『夜明けのすべて』のヒットの要因
を私なりに考察したいと思います。
『夜明けのすべて』は、新たな一歩を踏み出す勇気と希望に満ち、ある種清々しい感動を与えてくれる物語です。この映画は、二人の主人公が障害の苦難から立ち上がり、と、いってもその障害が治癒するわけではなく、その障害と上手く付き合いながら自分自身と向き合い、明るい未来への道を見つける過程を描いています。人生の中で逆境に直面した時、勇気を持って前進し、希望を抱くことがいかに重要かを示唆している作品です。
物語は、月に1回、PMS(月経前症候群)の影響で激しいイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)は、職場の同僚、山添くんのある行動で怒りを爆発させてしまう。だが、転職したばかりだというのに、やる気もなさそうに見えていた山添くんもまたでパニック障害を抱えていていました。様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていた。そんな二人は職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同士のような気持ちが芽生えていく。いつしか、自分の症状は改善されないけど、相手を助けることはできるのではないかと思うようになります。そこがこの映画のテーマとも言えるところです。
本当にそれだけのストーリーで、どんでん返しも事件もない、淡々とした映画なのになぜか眠気などが起きない今どき稀有ないい映画です。
また、主演の二人がアイドルなのに、普通のどこにでもいそうな若い男女という感じですごく好感のもてる演技を披露しています。言ってみれば自然な演技という感じがします。
ヒット要因① 二人(上白石と松村)の自然な演技と演出
松村北斗の演技
最初は非常に無気力でとっつきにくい山添くんが徐々に好青年に生まれ変わってくるところはこの映画の見どころです。これも松村の演技プランと監督の演出プランが功を奏している証拠だと思います。なぜなら、映画のロケはドラマの時間軸と一緒の順撮りはほぼ無く、他の役者やロケ現場のスケジュールや天候などによって順不同になるわけで、それに合わせて演技や演出をします。
つまり、役者にとっては前半の演技と後半の演技を前もってプランを立てて役になりきるわけです。それを間違うと編集が成り立たなくなります。
もちろん、そのためにスクリプター(撮影現場で記録を取る係)がいるのですが、スクリプターは演技や演出の事まで感知していません。
そこで役者と監督がしっかりプランを立ててないと大変な事になってしまうのです。その点、この映画はスムーズに観客が物語に入っていけるのはそのプランがしっかりしていたからだと思います。
ちなみにパニック障害のシーンは演技だとしても本当に過呼吸になる可能性があるため医師立ち会いのもとで撮影をしたそうです。文字通り体を張った演技だということがそのことからもわかります。
上白石萌音の演技
一方、上白石萌音の演技もまた見事であり、物語に重要な役割を果たしています。時々PMSの症状が出てきますが、彼女は山添くんの職場の先輩として、彼に助言や支援を提供し、彼の成長と変化に影響を与えます。彼女の演技は、観客に彼女のキャラクターの魅力や知性を伝え、物語の展開に新たな深みを加えます。彼女が演じる藤沢さんは、山添くんに対する理解と共感を示し、観客にとってもある意味”心の支え”となっています。
松村北斗と上白石萌音の演技は、物語にリアリティと感情をもたらし、観客に深い感動と共感を与えます。彼らの演技は、観客に物語の世界に没入し、主人公たちの旅路を共にする喜びを与えます。さらに二人が安易に恋仲にまで発展しないところもナチュラルでいいと思います。
つまり、そこも抑制のきいた演出と演技によって観客が見ていて共感できるとこかと思います。
互いの事情を知り、職場の人たちの理解に支えられながら、同志のような関係を築き、互いに助け合う物語です。主人公の内面の葛藤や成長、そして周囲の人々とのつながりを通して、観客に深い感動と共感を与えます。また、上白石萌音が演じる藤沢さんの表情や感情表現は、観客の心に強く響きます。彼女の演技は、物語にさらなる深みとリアリティを与え、観客を物語の世界に引き込みます。
ヒット要因② 障害(パニック障害 PMS)から逃げない
物語の中で、松村北斗と上白石萌音が演じるキャラクターが抱える障害は、パニック障害やPMS(月経前症候群)といった精神的または身体的な問題です。これらの障害は、彼らの日常生活に大きな影響を与え、物語の進行にも重要な要素として組み込まれています。
まず、松村北斗が演じる山添くんは、パニック障害という精神的な問題に直面しています。彼のパニック発作は突然起こり、激しい不安や恐怖をもたらします。この障害は彼の人生に大きな制約をもたらし、彼が自分自身と向き合う際の壁となっています。
物語の中で、彼はパニック障害との闘いに直面しながらも、自らの成長と克服を目指します。
一方、上白石萌音が演じる藤沢さんは、PMS(月経前症候群)という身体的な問題に苦しんでいます。彼女の体調の変化は、彼女の日常生活や仕事に大きな影響を与えます。映画の前半では月に一度表れるPMSのイライラや薬の副作用(居眠り)で職場を辞める事にもなります。
しかし、彼女はPMSと戦いながらも、前向きな姿勢を貫き、自分の人生を切り開いていきます。
このように、松村北斗と上白石萌音が演じるキャラクターが抱える障害は、彼らの人間性や個性をより深く描写し、物語の展開に重要な役割を果たします。彼らがそれぞれの障害から逃げないで成長していく姿は、観客に勇気と希望を与えると同時に、障害に対する理解と共感を促します。
パニック障害とは
パニック障害は突然のパニック発作を起こし、生活に支障が起こる状態で、不安神経症の一つです。動悸、発汗、息苦しい、吐き気、腹痛、離人感などの症状があり、脳の情報伝達物質の異常が関係しています。薬物治療や認知行動療法が中心で早期治療が重要です。
初めてこの発作を経験した人は、「このまま死んでしまうのではないか」 という恐怖感を抱くといわれる病気が「パニック障害」です。100人に1人は発症するとされる比較的頻度の多い病気と言われてます。
PMS(月経前症候群)とは
月経の前に身体や心にさまざまな症状が現れる病気で、性ホルモンの変動や神経伝達物質の影響、交感神経・副交感神経の乱れなどが原因とされています。
PMSが起こりやすい年代は初経を迎える10代から閉経を迎える50歳前後まで、さまざまな年代の女性がPMSに悩んでいますが、症状のピークは20代後半から30代という報告が多いようです。 症状は人によってさまざまで、身体症状が強く出る人もいれば、精神症状ばかりの人もいます。
『夜明けのすべて』の聖地(ロケ地)
これから当ブログでは日本映画の場合はできるだけロケ地である聖地を紹介したいと思います。まず1回目は『夜明けのすべて』の聖地です。
映画「夜明けのすべて」のロケ地は、東京や千葉や神奈川の各地を中心に、様々な場所が使われたようです。
主なロケ地は以下の場所です。*実際に現場に行って確認したわけではありませんのであくまで推測です。
大田区馬込:主人公・山添と藤沢が住む家、栗田科学の事務所
三鷹市:国立天文台三鷹キャンパス、プラネタリウム「4D2U」
練馬区:佐々総合病院
千葉 ユーカリが丘南口ロータリー
神奈川 相鉄線 緑園都市駅
以下、各ロケ地についてもう少し詳しくご紹介します。
大田区馬込
映画の舞台となる町は、坂道の多い場所という設定から、大田区馬込周辺が選ばれました。主人公・山添と藤沢が住む家は、実際に馬込にある一軒家を借りて撮影が行われました。栗田科学の事務所は、馬込駅から徒歩圏内にあるオフィスビルで撮影されました。
三鷹市
国立天文台三鷹キャンパスは、映画の中で重要な役割を果たす場所です。山添と藤沢がデートするシーンや、クライマックスシーンの一部がこの場所で撮影されました。プラネタリウム「4D2U」では、実際に投影が行われている様子が撮影されました。
練馬区
佐々総合病院は、映画の中で山添が入院する病院として登場します。実際の病院の外観と内観が撮影に使用されました。
千葉 ユーカリが丘南口ロータリー 映画冒頭の印象的なシーンで藤沢さんがバス停の前でPMSの影響で雨に倒れてる場面です。
神奈川 相鉄線 緑園都市駅 山添くんが電車に乗ろうとするが怖くて乗れないシーンかと思われます。
○これらのロケ地を巡ることで、映画の世界観をより深く味わうことができます。なお、ロケ地を訪れる際は、地元の方の迷惑にならないよう、マナーを守って見学してください。
『夜明けのすべて』まとめと感想
この映画がロングランする要因の一つはつらい障害を持っているのに頑張って生きている姿が見る人の共感を呼ぶのだと思います。しかも、それが決して噓っぽくない。さらにこの映画に出てくる登場人物が根っからの悪人がいないというのもいいですし、脇を固める役者もいい。キャスティングがうまい証拠です。
そして、この映画を見たとき映像が少しフィルムっぽいなと思っていたら、なんと今どき珍しい16mmフィルムで撮影していました。なのでフィルムの良さがこの映画には表現されています。ただ、役者にとっては何度も本番が出来ないので大変だったようです。
夜明けのすべてというタイトルの意味も後半に明かされるシーンが印象に残ります。
映画の中に出てくる言葉「生きるのはつらいけど死にたくない」というのも本音として良くわかります。
この映画は文字通り見た人の人生の糧となり、勇気と希望をくれる珍しい映画ではないでしょうか。
見た後に生きる力が湧いていくる映画はそんな多くないと思います。まさに令和の名作誕生と言えます。