衝撃の展開!夫の死の真相は?『落下の解剖学』の謎に迫る。

映画『落下の解剖学』とは
衝撃の映画が公開された。その名も『落下の解剖学』。実は原題も『ANATOMY OF FALL』で
同じ意味だ。ただ、定冠詞の”THE”が付かないので何かを指してるのではなく、この映画に出て来る落下について・・という感じだろうか。
しかも、この映画、今年のアカデミー賞5部門にノミネートされていて、作品賞は別として脚本賞か主演女優賞は受賞する可能性があります。脚本はよく練られており、監督自身の脚本です。
さらにアカデミー賞の会員はこういうミステリーものが大好きだ。フランス映画なのに原題が英語というのも暗にアカデミー賞を狙ってるのではないだろうか。
内容はまさに衝撃の展開。サンドラは夫サミュエル、視覚に障害を持つ11歳の息子ダニエルと暮らしていた。そのダニエルが自宅でもある山荘近くの雪の上で頭から血を流し横たわる父親に気づいたのだ。サンドラが駆けつけると、すでにサミュエルは息が絶えていた。
検視の結果、死因は事故または第三者による殴打が原因と報告される。事故か他殺か自殺か。他殺だとしたら犯人は誰か?その謎に迫ります。
*この後、多少ネタバレを含んだ文章になります。ご注意ください。
夫の死は本当に事故なのか?
映画の冒頭、サンドラが教え子のインタビューを受けている。そのインタビューの途中から大音量の陽気な音楽が聞こえてくる。夫がわざと流しているのだ。すでにこのシーンから二人の関係が
うまくいってないことがわかります。
その後サンドラは教え子を返した後、夫がいると思われる2階に上がります。その後夫婦喧嘩が始まると思ったら、ダニエルと犬の散歩のシーンにつながり、夫の転落死体が発見されるシーンへ。
その間の夫と妻のシーンは一切なし。観客としてはその間に何があったのかと思わせるところは
巧みな演出と言わざるを得ません。
真実はどこに?
警察の捜査が進み、検察は結局サンドラを起訴します。友人の弁護士は起訴理由を聞いて驚き、「なぜ、僕に黙っていた」と詰め寄ります。それは死の前日、夫婦が罵り合い、殴り合う音声が夫のUSBに残されていたからです。だが、それはまだ夫婦の謎に満ちた関係が暴露される導入にすぎなかったのです。その後、ほとんどが裁判のシーンになります。
*余談ですが私の知人で親戚のおじさんが風呂場で転倒し亡くなった時に警察は奥様にも疑いをかけてきたそうです。その奥様は警察に怒ったそうですが、多分警察というのは近親者さえも他殺の線で調べるというのが
通例のようです。
サンドラは夫の死について何も知らないと主張しますが、裁判が始まると証人や検事から夫婦の秘密が暴露され、サンドラに不利な証拠が次々と出てきます。真相が全く見えない状況が続きます。ここで夫について浮き彫りになってきたのは
- サミュエルは転落前に誰かと会っていたのか?
- サミュエルは転落前に何か悩みを抱えていたのか?
ダニエルの証言
これらの疑問を解き明かす鍵となるのが、ダニエルの証言です。ダニエルは視覚障害者でありながらも、鋭い聴覚と嗅覚で事件現場に残された様々な手がかりを感知します。
ダニエルの証言によって、サミュエルの死には不可解な点が数多く存在することが明らかになっていくのです。そこで誰が真実を知っているのか、可能性を考えてみると・・
可能性B 身障者の息子か・・最も怪しくないが証言が途中でひっくり返るところが最も怪しい。
つまり、自分ではないが誰が父をヤッたのかを知ってるのかも・・・
可能性C 真実は夫の自殺か事故か、しかし、自殺はあり得ないという証言もあり、観客としては
最も信じられない。
可能性D 少し余談に近いですが、スヌープだけが真実を知っているのかも。この映画にはボーダーコリーの愛犬が出てきますが、この愛犬の眼差しが何かを知ってる眼差しなのです。言い方を変えると演技がうまい。
実はボーダーコリーは犬種の中で1,2を争うほど賢いというのはよく知られた話です。息子に懐いてると思っていたがラストにはなんと母親のそばに寄って来る。これはいったい何を意味してるのか?
映画の終盤、衝撃的な事実が明かされます。裁判ではサンドラは無罪となり、夫は事故か自殺で転落したのではという感じで終わります。
サミュエルは、愛情と罪悪感の間で葛藤し、自ら命を絶ったのではということです。
- 巧みなストーリー展開
脚本賞にノミネートされてるだけあって、よく練られてます。観客としては真実はどこに
あるのかと思い巡らせるところがうまい。 - 演技派俳優たちの熱演
サンンドラ役の女優はいうに及ばず、ダニエル役の子役も自閉症的な感じを
出してるところなど絶妙な演技を見せてくれます。 - 美しい映像
舞台はフランスの雪山で美しい風景と凄惨な事件が明らかなコントラストとなってます。 - 深いテーマ
そもそもこの映画は裁判そのものにテーマがあるのではなく、夫婦とは何か、家族の絆とは何かということを強く感じさせる映画です。
- 「容疑者Xの献身」東野圭吾原作の映画化で堤真一の代表作とも言われている傑作です。
- 「愛欲のセラピー」ジュスティーヌ・トリエ監督の2019年の作品で魅惑の官能ドラマ。
まとめと感想
とにかく「落下の解剖学」は、最後まで目が離せないミステリー映画です。巧みなストーリー展開と演技派俳優たちの熱演が魅力です。真実と虚構、愛と憎悪、家族の絆といったテーマを深く掘り下げており、観る者に深い感動を与えてくれます。
「この映画は夫婦の関係が崩壊していく様を表現したいと思ったことから出発しました」
主なキャスト
妻 サンドラ /サンドラ・ヒュラー
「愛欲のセラピー」(19) U-NEXTで鑑賞可、「関心領域」今年のアカデミー作品賞にノミネート
夫 サミュエル/サミュエル・タイス
弁護士 ヴァンサン/スワン・アルロー
「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」(19)U-NEXTで鑑賞可
息子 ダニエル/ミロ・マシャド・グラネール
意外な見どころ
この映画の何よりの見どころは夫と妻の夫婦の壮絶な口喧嘩のシーン。
ほぼワンカットでお互いが喋りまくるところは圧巻!ある意味役者の演技の見せどころ。長セリフ
覚えるの大変だったろうなあ・・・なので妻役の女優サンドラ・ヒュラーは
アカデミー主演女優賞にノミネートされてる。当たり前といえば当たり前。
もちろん、アカデミー作品賞だってありえるかも。ハリウッドはこういう映画が好きだから。
でも、裁判モノ映画大好きの者としては真犯人が知りたかった・・・事故でも自殺でもいいから
それを裁判で証明して欲しかったです。