【映画】なぜフェイクドキュメンタリーは普通のホラーより怖く感じるのか?『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『クローバーフィールド/HAKAISHA』『バックルームズ』

① 「本当にあった映像かもしれない」と感じる怖さ
ホラー映画を観ていると、幽霊や怪物そのものよりも、「なぜか現実にありそう」と感じた瞬間のほうが怖くなることがある。
フェイクドキュメンタリーの怖さは、まさにそこにある。
フェイクドキュメンタリーとは、実際にはフィクションでありながら、ドキュメンタリーや記録映像のように見せる手法のことだ。
普通のホラー映画なら、観客は最初から「これは作られた映画だ」と分かったうえで観ている。ところが、手ブレのあるカメラ映像や、素人が偶然撮影したような画面を見せられると、その距離感が少し変わってくる。
「これは映画のワンシーン」というより、誰かが残した記録を見ているような感覚になるからだ。
しかも、このジャンルは恐怖の正体をすべて説明してくれない。
画面の外で何かが起きている。
登場人物は怯えている。
しかし、こちらには何がいるのかよく分からない。
すると観ている側は、自分で「何が起きているのか」を想像し始める。
つまり、フェイクドキュメンタリーの怖さは、映画が恐怖をすべて見せてくれるのではなく、観客自身の想像力が恐怖を完成させてしまうところにあるのではないだろうか。
今回取り上げる『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『クローバーフィールド/HAKAISHA』『バックルームズ』も、それぞれ恐怖の作り方はまったく違う。
しかし3作品には共通して、「観客にすべてを見せない」ことで怖がらせるという面白さがある。
では、それぞれの作品は、どんな方法で観客を怖がらせているのか。ここから3作品を見ていきたいと思います。
② 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』|「本当にあった映像かもしれない」が怖い
フェイクドキュメンタリーの怖さを語るなら、やっぱり外せないのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だ。
この作品が公開された当時、大きな話題になったのが、「これは本当に起きた事件なのでは?」と思わせる見せ方だった。
物語は、森で消息を絶った3人の若者が残した映像を、後から見ているような形式で進んでいく。
映像を撮っているのはプロのカメラマンではない。だから画面は手ブレするし、構図もきれいではない。登場人物たちがパニックになれば、カメラも一緒に揺れる。
普通のホラー映画なら「観客に怖いものを見せる」ためにカメラが動く。でも、この作品は違う。
その場にいた人間が、必死になって撮影していた映像を見ている。そう感じさせることが、恐怖につながっている。
そして何より怖いのが、最後まで「何が彼らを襲っているのか」がはっきりしないことだ。
森の中で何かが起きている。でも、その姿はほとんど見えない。
聞こえてくる音や、森の中に残された不気味な痕跡、そして3人の反応から、こちらが「何かいる」と想像するしかない。
ここで、さっきの話につながってくる。見えないものほど、想像してしまう。
「もしかしたら、この映像の外側に何かいるのでは?」
そう考え始めると、普通なら何でもない暗い森の風景まで怖く見えてくる。
個人的には、この作品の怖さは怪物そのものではなく、最後まで正体をはっきり見せないことで、自分の頭の中に恐怖を作らせるところにあると思う。
しかも、記録映像という形式がその恐怖をさらに現実に近づけている。「映画の中で起きていること」ではなく、「実際に残された映像を見ている」ような錯覚。それこそが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が今でもフェイクドキュメンタリーの代表作として語られる理由の一つではないだろうか。
③ 『クローバーフィールド/HAKAISHA』|「何が起きているのか分からない」怖さ
次に紹介したいのが、J.J.エイブラムスが製作を務めた『クローバーフィールド/HAKAISHA』。
今では『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』などでも知られるJ.J.エイブラムスが製作した作品である。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が「本当に残された映像かもしれない」という怖さなら、『クローバーフィールド/HAKAISHA』は、何が起きているのか分からない怖さが印象に残る作品だ。
この映画では、ニューヨークで突然、大きな異変が起こる。しかし、主人公たちは何が起きているのか分からない。
街が大混乱になり、巨大な何かが現れる。それでも、それが何なのか、どこから来たのか、なぜこんなことが起きているのかは、すぐには説明されない。そして、その状況を撮影しているのが、普通の市民が持っていたビデオカメラだ。ここが、この作品の面白いところ。カメラを持っている人物が知らないことは、観客にも分からない。
ニュース映像のように全体を見せてくれるわけでもない。上空から街を見せてくれるわけでもない。目の前で起きていることしか分からない。
だから、画面の外で何が起きているのかを想像するしかない。
突然、大きな音がする。何かが街を破壊している。人々が逃げている。でも、カメラの前に何が現れるのかは、その瞬間まで分からない。
この「情報の少なさ」が、かなり怖い。
普通の怪獣映画なら、巨大な怪物の全身を見せて、「これが敵です」と観客に教えてくれる。ところが『クローバーフィールド/HAKAISHA』では、怪物を見ても全体像がつかみにくい。そのため、観客は登場人物と同じように、「いったい何が起きているんだ?」という状態に置かれる。
個人的には、ここがこの映画の怖さだと思う。「観客だから全部知っている」という安心感がない。
むしろ、自分もその場に放り込まれてしまったような感覚になる。
しかも、ハンディカメラによる激しい手ブレが、その臨場感をさらに強くしている。もちろん、画面が揺れすぎて「ちょっと酔うな」と感じる人もいると思う(笑)。それでも、この撮影方法だからこそ、普通の映画では味わえない緊張感が生まれている。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とは違い、「本当にあった映像かもしれない」という感覚よりも、「自分もこの状況に巻き込まれている」という感覚が強い。そして、それが次に何が起こるのか分からない恐怖につながっているのだと思う。
④ 『バックルームズ』|「何も起きていないのに怖い」という新しい恐怖
そして、今回この3作品を取り上げようと思ったきっかけのひとつが『バックルームズ』だ。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が「本当にあった映像かもしれない」という怖さ、『クローバーフィールド/HAKAISHA』が「何が起きているのか分からない」という怖さだとすれば、『バックルームズ』は、「何も起きていないのに怖い」。これがかなり独特なのである。
どこまでも続いているような、同じような空間。人の気配がない。出口も分からない。普通なら、何か恐ろしいものが出てきて初めて「怖い」と感じるはずなのに、『バックルームズ』では、むしろ何もないことそのものが不気味に感じられる。
「ここ、さっきも通ったんじゃないか?」「この先に何かいるんじゃないか?」
そんなことを考え始めると、ただの無機質な空間だったはずなのに、どんどん怖くなってくる。
そして、この映画で面白いのは、観ている側が「何か起きてほしい」と思うのに、同時に「何も起きないでくれ」とも思ってしまうところ。
これが怖い(笑)。
『ブレア・ウィッチ』や『クローバーフィールド』とは方向性が違うけれど、やはり共通しているのは、観客にすべてを見せないことなのだと思う。見えないからこそ、自分の頭の中で勝手に想像してしまう。
そして一度想像してしまうと、ただの黄色い壁と蛍光灯さえ、もう普通には見られなくなる。
これが『バックルームズ』の怖さなのだ。
バックルームズは結局、何だったの?
個人的な感想だけど、結局、あの「バックルームズ」は何だったのだろう?
人間の深層心理を表しているとか、いろいろな解釈がされているようだが、正直よく分からなかった。家具が山積みになっていることを考えると、家具屋を営む主人公の深層心理を表しているのかな、とは思うのだが……。
フェイクドキュメンタリーを、あたかも本物のドキュメンタリーのように見せる技術は本当にうまい。そこはこの映画の大きな魅力だと思う。
ただ、その一方で、説明の部分がかなり省かれているので、分からない人は最後まで分からないままなのではないかと思った。
もちろん、すべての映画に丁寧な説明が必要だとは思わない。観客に想像させる余白がある作品も好きだ。ただ、見ている人に何も伝わらなければ、せっかくの仕掛けも意味がないのではないかとも思ってしまう。
それと、ラストにおまけ映像のように出てくる1990年の映像。そこに登場する人物が、なぜあそこまでの防護服を着ているのかも、最後までよく分からなかった。
ただ、この映画について調べていて面白かったのが、監督の経歴だ。監督は16歳の頃から、この手の作品をYouTubeで発表していたという。それをA24の人間が見つけて、映画製作に誘ったそうだ。16歳からYouTubeで作品を作っていた少年が、やがてA24から声をかけられて映画を作る。
そう考えると、ある意味これはアメリカン・ドリームのような話でもある。
映画そのものには「分からない!」と言いたくなる部分もあったけれど、監督がここまでたどり着いた経緯には、ちょっと興味を持ってしまった。
⑤ 3作品に共通する「怖さ」の正体
ここまで3作品を観てきて思うのは、それぞれ怖さの種類は違っていても、根っこの部分には共通点があるということ。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、「この映像、本当にあったものなのでは?」と思わせる怖さ。『クローバーフィールド/HAKAISHA』は、「何が起きているのか分からない」怖さ。そして『バックルームズ』は、「何もない空間なのに、なぜか怖い」という怖さだ。
一見すると、まったく違う。でも、3作品とも共通しているのは、観客にすべてを見せないことだと思う。
普通のホラー映画なら、恐ろしいものを見せることで怖がらせる。
ところがフェイクドキュメンタリーでは、見せない。説明しない。登場人物たちが分からないことは、観客にも分からない。
だからこそ、「この先に何かいるんじゃないか」「いったい何が起きているんだ?」と、自分の頭の中で想像してしまう。
そして、ここが普通のホラーとはちょっと違うところだと思う。怖いものを見せられているのではなく、自分で怖いものを想像してしまう。
だから、画面を見ているだけなのに、いつの間にか自分自身がその世界に入り込んでいるような感覚になる。
結局、フェイクドキュメンタリーの怖さは「映像のリアルさ」だけではない。観客自身に恐怖を作らせること。
これが、普通のホラー映画よりも怖く感じる大きな理由なのかもしれない。
⑥ まとめ|怖いのは「映像」ではなく「自分の想像」なのかもしれない
今回、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『クローバーフィールド/HAKAISHA』『バックルームズ』の3作品を観て、改めて感じたのは、フェイクドキュメンタリーの怖さは「何が映っているか」だけではないということ。むしろ、映っていないものを自分で想像してしまうことが怖いのだと思う。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』では、「この映像は本当にあったものなのでは?」という感覚。『クローバーフィールド/HAKAISHA』では、主人公たちと同じように何が起きているのか分からない不安。『バックルームズ』では、何もない空間にさえ「何かいるのでは?」と思ってしまう恐怖。3作品とも怖さの方向は違う。
でも、観客にすべてを説明しないことで、こちらの想像力を刺激してくるところは共通している。だから、映画を観終わったあとも妙に怖さが残る。
スクリーンの中ではもう何も起きていないのに、頭の中では勝手に続きを想像してしまうからだ。そう考えると、フェイクドキュメンタリーで本当に怖いのは、怪物でも幽霊でもない。自分自身の想像力なのかもしれない。
――そして、想像してしまったものほど、怖い。
🇺🇸 作品情報
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
- 製作:ロビン・カウイ、グレッグ・ヘイル
- 監督:ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス
- 出演:ヘザー・ドナヒュー、ジョシュア・レナード、マイケル・C・ウィリアムズ
『クローバーフィールド/HAKAISHA』
- 製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク、ガイ・リーデル、シェリル・クラーク
- 監督:マット・リーヴス
- 出演:マイケル・スタール=デヴィッド、ジェシカ・ルーカス、T・J・ミラー、リジー・キャプラン、マイク・ヴォーゲル
『バックルームズ』
- 製作:ショーン・レヴィ、ダン・コーエン、ジェームズ・ワン、マイケル・クリアーほか
- 監督:ケイン・パーソンズ
- 出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット、ルキタ・マックスウェル
